関節鏡・人工関節治療

 
当院整形外科では、川崎医科大学総合医療センター 阿部教授・野田教授をはじめ、総勢7~10名の整形外科専門医・非常勤麻酔科専門医の協力の下、手術を行っています。

手術室


  • 新棟 手術準備室

  • 新棟 手術室
    *新棟手術室は、バイオクリーンルーム
    クラス1000で、人工関節手術対応の手術室です。

関節鏡視下手術とは

関節鏡とは内視鏡の一種で、関節の中をのぞくためのものです。関節鏡は20世紀に日本人が開発・発展させ、その後関節鏡視下手術は世界中に広まりました。
 
従来、関節の手術は大きな切り口を必要とし、患者さんへの侵襲も大きなものでした。
近年は技術が高進し、小さな切り口(5mm程度の傷が数か所)での手術が可能になりました。術後の回復が早く、短期入院で、患者さんへの負担も少ない治療が可能になっています。

膝関節鏡

膝の半月板損傷や靭帯損傷に対して、膝に5mm程度の2〜3か所の傷を開け、カメラを関節内に挿入し、関節の状態を観察したり、損傷部位を修復したりします。

半月板損傷

半月板は膝関節の大腿骨と脛骨の間にある半月状の板で、内側・外側にそれぞれあり、クッションの役割をはたしています。これが損傷すると、膝の曲げ伸ばしの際にひっかかりを感じたり、関節を動かす際に強い痛みが起きるようになります。
 
原因として、スポーツなどのけがによる場合と、加齢により傷つき損傷する場合とがあります。損傷の状態によっては、関節軟骨を傷めることもあります。
患部に負担をかけないよう、膝の安静を保つことが治療の基本になります。リハビリテーションや抗炎症薬の処方などで、症状が改善する場合がありますので、まずは保存的治療を行います。
 
手術による治療の場合は、関節鏡を使った鏡視下手術を行い、損傷した部分を縫い合わせたり、損傷した部分を取り除いたりします。

  • 半月板損傷(手術前) 手術前
  • 半月板損傷(手術後)手術後

前十字靭帯損傷

スポーツや事故などの大きな外力が膝に加わった時に、種々の靭帯損傷を生じます。膝には、内側側副靭帯、外側側副靭帯、前十字靭帯、後十字靭帯4つの靭帯が存在します。損傷部位によっては、膝の不安定感が出現することがあります。
 
画像診断ではMRIが有用です。治療法はサポーターを装着して早期から痛みの無い範囲で可動域訓練を行い、筋力低下を最小限にとどめるようにします。
内側側副靭帯損傷では多くの場合、保存的に治癒しますが、前十字靭帯損傷では、保存療法では治癒しずらく手術を選択することが多くなります。
手術は通常、関節鏡で行います。十字靭帯の治療は自家組織(ハムストリング腱や膝蓋腱など)を用いて再建術が一般的です。
術後は3~6ヵ月程度のリハビリを行い、徐々にスポーツ復帰となります。

  • 前十字靭帯損傷(手術前) 手術前
  • 前十字靭帯損傷(手術後) 手術後

肩関節鏡

肩の腱板断裂や関節唇損傷に対して、5mm程度の数か所の傷を開け、カメラを関節内に挿入し、関節の状態を観察したり、損傷部位を修復したりします。

腱板断裂

肩の運動障害・運動痛・夜間痛を訴えて来院される方が多く、挙上するときに力が入らない、挙上するときにゴリゴリと音がするという訴えもあります。
腱板は肩関節を安定させる4つの筋肉の総称です。骨と骨(肩峰と上腕骨頭)にはさまれている板状の筋肉があり、この部分が使い過ぎにより、すり切れることがあります。原因としては、加齢によって断裂する場合と、外傷によって切れる場合とがあります。加齢によるものが多く、中年以降の病気といえます。
 
診察では、肩が挙上できるかどうか、拘縮があるかどうか、軋轢音があるかどうかをチェックし軋轢音や棘下筋萎縮があれば、腱板断裂を疑います。
MRIが非常に有用で、MRIでは骨頭の上方の腱板部に断裂の所見がみられます。
 
治療法は、保存療法と手術療法があります。保存療法では、注射療法と運動療法が行なわれます。残っている腱板の機能を鍛える腱板機能訓練は有効です。保存療法で痛みと動きが治らないときは、手術を行ないます。
手術には、低侵襲で関節鏡視下手術があります。

  • 腱板断裂(手術前)手術前
  • 腱板断裂(手術後) 手術後

肩関節脱臼

外傷などを契機として肩関節の脱臼が起こり、何度も肩が外れるようになってしまった状態を言います。肩関節の中の靭帯が、切れてしまったり、骨折を起こしている場合があります。
治療法は、壊れた関節の中の骨や靭帯を元に戻すことで、完治を目指すために手術を行います。
 
手術には直視下(皮膚を切る)に行う方法と、関節鏡視下に手術を行う方法があります。従来の直視下法は、皮膚の美容の問題のほかに、術後の関節可動域の「かたさ」のために、復帰後に十分なパフォーマンスがでなかったという問題があります。
 
関節鏡視下手術は、創部はほとんど目立たず、術後の関節可動域の「かたさ」が少ないため、スポーツ復帰がしやすいというメリットがあります。関節鏡視下バンカート法といわれる手術で、スーチャーアンカーと呼ばれる吸収する糸付きの小さなビスを使って関節の靭帯や骨を修復する方法です。手術後3週間程度装具をつけますが、術後1~2ヶ月で日常生活に支障のないレベルに復帰でき、3ヶ月程度でスポーツ復帰をめざします。

  • 肩関節脱臼(手術前)手術前
  • 肩関節脱臼(手術後)手術後

肩鎖関節脱臼

肩鎖関節は鎖骨と肩甲骨の間の関節です。肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯、三角筋・僧帽筋により保たれています。柔道・ラクビーなどのコンタクトスポーツや転落・転倒などの外傷により、肩鎖関節がずれます。 関節のずれの程度・方向により肩鎖関節損傷は、Ⅰ度からⅤ度まで分類されます。

  • Ⅰ型(捻挫)は、正常でX線では異常はありません。
  • Ⅱ型(亜脱臼)は、関節の隙間が拡大し鎖骨の端がやや上にずれています。
  • Ⅲ型(脱臼)は、鎖骨の端が完全に上にずれています。
  • Ⅳ型(後方脱臼)は、肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂しています。三角筋・僧帽筋は鎖骨の端からはずれています。鎖骨の端が後ろにずれている脱臼です。
  • Ⅴ型(高度脱臼)は、Ⅲ型の程度の強いものです。肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂しています。三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側1/3より完全にはずれています。
  • Ⅵ型(下方脱臼)は、鎖骨の端が下にずれている非常にまれな脱臼です。

症状は、肩鎖関節の安静時の痛み、押した時の痛み、運動時の激しい痛みと腫れがみられます。治療法は、Ⅰ型(捻挫)は三角巾や装具やテーピングなどの保存療法を行い、その後リハビリ加療を行います。Ⅳ型、Ⅴ型、Ⅵ型の完全脱臼は手術が必要です。当院では傷んだ靭帯に対して、数cmの切開を必要とする直視下手術ではなく、5mm程度の傷3か所ほどで侵襲の少ない鏡視下手術を行っております。


人工関節とは

近年、関節の痛みや機能障害のため、歩行などの日常生活に支障をきたしている高齢者が急増しています。人工関節置換術といった関節再建技術により、患者さまにより良い医療を提供し、生活の機能と質を回復させることが可能となりました。

人工関節置換術は、変形性関節症や関節リウマチなどにより悪くなった関節を、人工関節に置き換える手術です。主に金属やセラミック、ポリエチレンなどでできており、関節の痛みの原因となっている部分を取り除くため、他の治療法と比べると痛みを取る効果が大きいのが特徴です。また、術後早期よりリハビリを開始することができます。

人工膝関節全置換術(TKA)

人工膝関節置換術は、日本国内で年間8万件以上の手術が行われる一般的な治療法になっています。手術を受けられる患者さんの平均年齢が73歳と、比較的高齢の方が手術を受けられています。
 
手術の1番の目的は、関節の痛みの除去です。症状の進んだ膝関節を人工膝関節に置き換え、痛みを取り除きます。膝全体の傷みが進行している場合は、膝の関節面全てを置換する全置換型(TKA)による治療を選択します。
症例により個人差はありますが、退院後1~2ヶ月でほとんどの場合、痛みが解消します。

人工膝関節全置換術(TKA)術後のX線
  • 正面
  • 側面

人工膝関節単顆(たんか)置換術 (UKA)

膝の痛みの進行が比較的初期の場合は、関節の傷んでいる側だけを人工関節に置き換える片側置換型(UKA)による治療を選択します。

人工膝関節部分置換型(UKA)術後のX線
  • 正面
  • 側面

患者さまの体験談

  • 対象者Yさん 83歳(女性)
  • 病名変形性膝関節症
  • 治療法人工膝関節置換術

【手術後から退院までの経過】
術後翌日からリハビリ開始、1週間目には歩行器を使って歩いていました。術後2週間目には自宅に帰りました。
 
《 患者さまからの一言 》
手術前は膝が痛く歩けなければ何もできないと思い、手術を受けました。手術後は痛みがなく、普通の人と同じように歩けるのがうれしいです。

人工股関節置換術(THA)

人工股関節置換術は、日本国内で40年以上前から行われており、現在では年間5万件以上の手術が行われる一般的な治療法になっています。手術を受けられる患者さんの平均年齢が64.7歳と、比較的高齢の方が手術を受けられています(株式会社矢野経済研究所「2016年版メディカルバイオニクス(人工臓器)市場の中期予測と参入企業の徹底分析」より)
 
変形性股関節症や関節リウマチによって傷んだ股関節の表面を取り除いて、人工関節に置き換えます。症例により個人差はありますが、退院後1~3ヶ月でほとんどの場合、痛みが解消します。

人工股関節置換術(THA)術後のX線
  • 手術前
  • 手術後
  •     手術前
  •     手術後

患者さまの体験談

  • 対象者Tさん 67歳(女性)
  • 病名変形性股関節症
  • 治療法人工股関節置換術

【手術後から退院までの経過】
術後翌日からリハビリ開始、2週間目には歩行器を使って歩いていました。3週間目に退院しました。
 
《 患者さまからの一言 》
痛み止めやリハビリをしたが、痛みがおさまらなくなり、手術を行いました。
手術後は、人工関節を入れたのも忘れるほど痛みが取れました。

肩人工骨頭置換術・人工肩関節置換術

外傷や変性疾患に伴い、肩関節に炎症が起こると強い痛みが生じるために日常生活動作に支障をきたします。
肩の傷みが進行している場合は、傷んだ肩の関節を置換する人工肩関節置換手術を選択します。
手術翌日にはベッドから起き、歩くことが可能です。2~3ヶ月程度をかけて徐々に通常の生活を再開していきます。

肩人工骨頭置換術のX線

  • 手術前

  • 手術後

  • 手術前

  • 手術後
人工肩関節置換術(RSA)のX線

  • 手術前

  • 手術後

  • 手術前

  • 手術後

※各数値データ参考:株式会社矢野経済研究所「2016年版メディカルバイオニクス(人工臓器)市場の中期予測と参入企業の徹底分析」より

高位脛骨骨切り術(HTO)

変形性膝関節症に対する外科的治療の一つで、O脚変形の影響により重心が内側に偏った過重なストレスを、自分の骨を切り、少し角度を変えることで、比較的きれいな軟骨の存在する外側に移動させる手術です。これにより、膝の内側への負担が減り、患者さんのひざが温存できますので、正座が引き続き可能であったり、スポーツや農業などの仕事へ復帰された患者さんが多いです。一方で、骨が癒合するまで痛みが多少続くこと、また、リハビリをしっかり行うことが必要です。

高位脛骨骨切り術(HTO)のX線
  • 手術前
  • 手術後
  •  手術前
  •  手術後